軽印刷、軽オフ

軽印刷」という業界用語が存在します。
「軽い」印刷が存在するということは「重い」印刷もありそうなものなのですが、重印刷という単語は存在しません。


また軽オフ=軽オフセット印刷の略語、という業界用語もあります。

当社は軽印刷の会社です。いや、厳密に言うと軽印刷からスタートして、一般的な商業印刷会社のようになりましたが、軽印刷な部分は捨てていません、という会社です。

業界外の方からすると、それがどうした、となりますが、最近はこれって大切な概念だなぁと思っています。

日本にだけしか存在しない業界用語のようなのですが、先日wikipediaに"軽印刷"があったので読むと、なるほど、と上手くまとめられています。

Wikipediaより「軽印刷」

家内工業的で、小ロット(印刷部数)で、仕上がり(納期)が早いという特徴が、現代にまで受け継がれている。

そうです。当社も比較的、小ロットと短納期を評価していただくことが多いです。

さらに可笑しいのが、

印刷業界内部で使われる用語であり、「軽い」という言い方には「難度の低い印刷技術」「手軽に開業できる」という、いささか自虐的、差別的なニュアンスが含まれている。

という部分。これも、なるほど!と膝を打つ感じで、良い表現です。私も時には自虐的な意味で使ったり。

ですが今の世の中、大量生産・大量複製な時代ではありませんよね。当社の受注も近年、確実に小ロット・多品種化しています。

当社に設備している機械は、いまや軽オフセット印刷機だけではなく、大型の多色機や高速のデジタル印刷機が主役となりました。
しかし、この「小ロットなものでも、フットワークよく、スピーディに製本まで仕上げて・・」という軽印刷的遺伝子は未だに受け継がれているとおもいます。

先日、年にいちどのISO9001の定期審査がありました。その時に審査員の方からのインタビューで、
「社長は、御社のつよみは何だとお考えですか?」

と質問されました。私は、とっさに「いくら受注したロットが小さくても、丁寧に、いやがらずに作業をすすめる社員が沢山いること、またそういう文化をもっていることです」と答えました。

これも外の方から見たらわからないかもしれませんが、印刷というのはそもそも「量産技術」をベースに成り立っている商売です。
ということは単純に言い切ると「大量に印刷すれば、たくさん儲かる」という図式が成立します。
また、そうなると小ロット多品種、というのは「儲け」からは遠ざかるような話なわけです。
機械の段取り替えやら紙の手配やらで、現場作業は煩雑を極めます。普通だと嫌がって当然なのです。

それを、当社のスタッフは「軽印刷屋」スピリッツで、全く嫌がらずに前向きに作業をしてくれます。

それも、小ロット化がどんどん進むなかで、”印刷"だけではなく、組版もすれば、製本や加工までを社内でこなせる、そのようなスタッフに恵まれている。

かつては「自虐的」な意味でつかわれていたこの「軽」。この"かるい"部分、これがまた大切な要素になる時代がきていることを感じる、という独り言でした。





手動の話

前回の話の続き。

印刷機械の動力ははもちろん電気。当社にも大きなモノからマイクロサイズな名刺を印刷するような機械まで含めると20台以上の印刷機が電気の力で頑張ってくれています。

しかし当社には唯一ヒトのチカラ、人力で動く印刷機があります。



ご覧下さい。

adana21-Jです。当社の機械の中ではわりと新人。


手動でガッチャンガッチャンと印刷する活版印刷機です。
ちょうど5年ほど前に新宿の朗文堂さんがこの機械を復刻されると聞いて、いてもたってもいられず購入した、素敵な印刷機。
プリントゴッコ無きいまの世の中、「現役かつアナログな印刷機」というカテゴリーでは最小単位のひとつではないかと。
最近はお客様にも披露する機会が増えて、活躍してくれるようになりました。
「手動で動いて仕組みが見える」というだけで老若男女にかかわりなく皆さん、わりと興奮されます。



話は変わって、最近面白かった本。

月3万円ビジネス
月3万円ビジネス
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藤村靖之
晶文社
売り上げランキング: 4811

サブタイトルが「非電化、ローカル化、分かち合いで愉しく稼ぐ方法」です。
いいですよね。いま私たちがしているビジネスには直接には関係ないかも。
けれども、考え方の面では大いに勉強になる本です。「安い、高品質、すぐに手に入る」というものとは対極の立ち位置。コーヒー豆焙煎したり、ニワトリの卵を売ったり。けれど量はそもそも追わない。
だけどなんだか共感してしまう話が満載。商売ってそもそも元のカタチはこうだったのかも。



この本を読むと、さっきお話したAdana-21がより愛おしくなります。生産性や高品質とは無縁。だけど、その機械が人力で動くことで、ワクワクした感じが喚起される。

デジタルはデジタルで便利だし効率的で大いに結構なのですが、紙や文字を扱うからにはこういうアナログ感も大切にしたいなと。

雑記

3月も末になり、世間は期末です。

昨日読んだ記事によると、震災後リスク分散を目的とした大阪への本社移転があるだろう、と予想されていたのですが、実際は転出超過だったそうです。

大阪市が全国ワースト1位 企業転出超過 震災による「東から西」はなく 帝国DB調べ


諸条件を考えると大阪に本社を、との流れが自然な筈なのにそうなっていない理由のひとつには電力供給のリスクもあるのだそうです。

この冬は乗り切れましたが、この夏はどうなるのでしょう?「節電」という名前の雑巾もそろそろ絞りしろが少なくなっているような気もします。


コトの是非は横に置いてひとつ言えることは、震災後のこれまで、わたしたち国民が「電力」ということについて、これまででいちばん意識し考えた一年だったように思います。


誠に個人的な不安をひとつ挙げると、


これです。我が家のトイレは最近リフォームをしたついでに昭和な洋式便所から近代的トイレへと華麗なステップアップを果たしたのですが。
便利なのは大いに結構なのですが、水を流すインターフェイスがこれなのです。
トイレを流すのにボタン、っていかにも日本人的な便利さ追求。

便利なのは良いのですが、これって停電したらどうなるのでしょうか。
不安にかられて、便器本体を確認したら、↓これもついていない。

さすがにそれはアカンやろ!と一人で呟いてしまいました。
電気さまへの依存もここに極まれりです。

TOTOさんも危惧されているようで、検索したらこんなページがありました。
断水・給水制限・停電時のトイレ使用について


これからのプロダクトデザインは「電気をつかっての便利さ」と「その電気が停まったときの不便さ」を天秤にかけたうえで設計されるべき。

昔のミッションの車って、いざエンジンがかからなくても押しがけ、なんかができましたよね。ああいう感じ、いざとなっても別の解決方法がありますよ、みたいなことってとても大切だと思いました。

雑記

見える化っていう言葉、世の中でもよく使われるようになりましたよね。
きっかけはこの本だと思うのですが。


見える化-強い企業をつくる「見える」仕組み


で当社でも、これまではいろいろと見えなかったり曖昧だったりするモノやコトを可視化することに重点をおいて活動したりしています。例えば先日ご紹介した節電活動などは「どれくらい電気をつかったのか?」が量として捉えられないと、なんとなくスイッチを消すだけ、みたいなことに終わりがちですよね。なかなか難しくて一筋縄ではいきませんが、可視化にむけての努力は続けようと思っています。

というように「見える化」目線で世の中を見ていると致命的な「見えない」状態を発見してしまいました。

お鍋をするときに、具や汁をすくうお玉の話です。
お玉という名前の他にも、玉杓子、レードルなど色々な名称があるようですが、要は、お鍋を食べるときに掬うアレです。


これって、具と汁を一緒に掬うときの杓子と、先端が網になって具だけを掬える網杓子がセットになって、あく取りの壺みたいなのに入っていることが多いと思います。(お鍋のお店限定かも知れません、ご家庭ではどうなのでしょう?)


で、これって柄の柄(えのがら、と読んで下さい・・要は、手で掴む部分の模様、という意味です)が同じであることが多くて、どっちがどっちなのか、まるでおみくじを引くような50%の確率でしか正解を引けない、という悲しいデザインなのです。

調理器具業界の方々には声を大にして申し上げたい。

杓子と網杓子をセットで販売する場合、柄の柄(えのがら)は違いをつけてください。例えば網杓子の方は、柄に小さな穴を空けるとか。


このよろしくないデザインのおかげで、冬の間、お鍋を愉しむ日本国民が杓子を間違えてとってしまい、浪費してしまう時間の総和を考えると何ともやりきれません。

雑記

先日テレビに出ました。

関西ローカルの読売テレビ、「かんさい情報ネット ten!」という番組中の「街かど☆トレジャー」というコーナーです。


2月のとある日、お昼休み中に近所をブラブラしていたら、当社グループの(株)アサックのオフィスが黒山の人だかり。

なにかややこしいことになったのかと思い、オフィスに入ったら突然"ますだおかだ"の増田さんが「社長ですか!」と現れてビックリ。

そのまま江戸堀印刷所活版印刷の紹介。



まったくアポ無し、突然のことだったので焦りましたが、ますださんの上手な仕切りで何とか乗り切れました。

どんな内容に編集されているのだろう、とあまり期待もせずに番組を見ると、アサック、江戸堀印刷所ともにとても上手に、長い時間をかけて良心的に紹介していただいて、ありがたい限りでした。
また驚いたのは、番組中の映像がとてもキレイ。出たとこ勝負な撮影にもかかわらず、です。まるで上手な会社案内ビデオを作っていただいたような感じです。陳腐な言い回しですが、さすがプロ、と感心しました。


放映後、数日は複数のご近所の方に「見たで!」といわれました。夕方6時台のテレビって自分は見る機会はほとんどありませんが、皆さん結構見てはるんやなぁと。


あと、活版印刷ってあまり普通の人にとって馴染みがあるものではないのでしょうが見方を変えると、こうやってテレビに取り上げられるように、なにか楽しい可能性をもっているのかもしれませんね。

agitated

自分の専門や趣味とはほど遠く、文中に出てくる固有名詞や専門用語もちんぷんかんぷん。なのに読み始めたら、著者の言葉が発する熱のようなものに感じてどんどん没入していく。
読みすすめることで自分に小さな化学変化がおきるかもしれない、というワクワク感が湧いてきて、一気に読了。

そんな本に久しぶりに出会いました。

僕らが作ったギターの名器 (文春新書)
椎野 秀聰
文藝春秋
売り上げランキング: 62673


自分は音楽は大好きですが、演奏者ではありません。ギターのブランド名はおろか、プレイヤーも一部のロックギタリストを除いて全然知りません。著者略歴を見て、ギターの職人さんだとおもいきや、Vestaxというブランド(DJ関連機材ですごく有名)の社主であられることにもビックリしました。(このブランド、日本のブランドではないみたいに格好イイです。前からこのアナログプレイヤーが欲しかったけど生産中止)

ただ、この著者が語るものづくりへの姿勢に大いに共感してしまいました。いや共感じゃなくて、煽られた感じ。

著者は、職人が工房で作るスタイルでもなく、また単なる大量生産とも違う、日本の強みを活かしたギターづくりを目指します。

1/1(いちぶんのいち)のものづくりも良いが1000/1000のものづくりも面白い。

よく職人礼賛の文章は見かけますが、分業化された生産方式にロマンを見いだす概念は希有かなと思います。それを著者は生産工程に配置された工員の腕に敬意を払い、それを最大限に引き出すことにより、発売から40年経ついまも世界中から評価をうけるギターを世に出してきました。その考え方も手法も、現場主義かつ演奏者の声をとても大切にされていて、業界は異なれど学ぶところは大きいです。


ギター好きはもとより、ものづくりに関わる人にも皮膚の粟立ちを提供する、大いに刺激になる本でした。こんな素晴らしい本を書いていただき感謝です。ありがとうございました。

下は著者自らが語った文藝春秋のサイト。
ギターと音楽を愛する人へ

残念な

インターネット上でここ数日出回っていた記事で、
「人力飛行ついに成功」

という記事がありました。
動画を見て、「おお!とうとう人類は鳥のように飛ぶことができるのか!」と興奮してしまいました。
ああ、これで死ぬまでにやりたい事がひとつ増えたな、と嬉しく感慨に浸っていたのですが。

あれま。

http://sankei.jp.msn.com/wired/news/120323/wir12032323590004-n1.htm

映像はつくりものだったそうです。
壮大かつ格好いいイタズラではありますが、一人類として残念でした。