小さな工夫

[工場]
工場の小ネタです。
当社は大阪市西区の江戸堀というところにあります。この江戸堀という場所は、大阪駅エリアから車だと10分くらい、地下鉄だと1駅のオフィス街に位置しています。7階建ての自社ビル内には、DTP-製版-印刷-製本加工-在庫発送、と印刷加工が一気通貫でできる設備が文字通りぎゅうっと詰め込まれていまして、来社されたお客さまに工場をご覧いただくと、「えー!こんなに印刷機だとか製本機がいっぱいなんて、外から見たら全然わからなかった!」と驚かれることしばしばです。
ただ、街の真ん中の工場ですのでスペースは決して広くはありません。狭い場所をやりくりしながら貴重な土地をめいいっぱい有効活用するようにしています。


前回の工場見学のお話でもありましたが、同業者の方が当社の現場へ見学に来られた際に「おもしろい!真似させて!」と喜んでいただける、小さなネタをご紹介します。

これです。


印刷機の周囲にたくさんあった一斗缶を集約しました。

オフセット印刷機は、インキや水を使うことから各種の溶剤や添加剤、洗浄液を使用します。そして、そういった液体はすべて一斗缶の状態で工場に入ってきます。

以前は数種類あるこの一斗缶が、印刷機の周囲にそれぞれ置かれているような状態でした。一斗缶の占有する面積は約25センチ四方で、複数の機械でそれぞれ、何種類もの一斗缶を床に置くとそれなりに面積を食ってしまいます。
また一斗缶からボトルに小分けにするときは、一斗缶の蓋を開け、手動ポンプで吸い上げて、また一斗缶の蓋を閉めて、と少し煩雑な工程を当たり前のようにこなしていました。面倒くさいですよね。(灯油を石油ストーブにいれるのを想像してみてください。)また一斗缶は透明の容器とは違って、どれくらい残量があるか外から見たらわからないというのも弱点です。使い終わったり残量の少ない缶と新品の見分けがひと目ではわかりません。
更にはこういった溶剤は揮発性であることが多く、もし一斗缶の蓋を締め忘れ、開けっ放しにしてしまうと空気を汚したり健康に影響をおよぼすリスクもあります。

ということで、約10年前にこの一斗缶を一箇所に集約しました。結果は良いことずくめ。新たにスペースが生まれてその他のデメリットも霧散してしまいました。

この一斗缶集約化を実現するために、血眼になってカタログを取り寄せたりして口金とスタンドを探したのですが、今ではアマゾンで手に入るとは。便利になりました。

コッくん口金


スタンド


こういった小さな工夫って、思いついたり教えてもらったりしたときは、これはいい!と盛り上がるのですが、トライしてみたはいいが結局使いづらくて利用されなくなったり、ということも多いのです。その中でもこの一斗缶ステーションは嬉しいことにゴミアイデアに陥らずに生き残り、今も活躍してくれています。

工場見学

[工場]
ちかごろ、当社の印刷工場をご覧に来られる方が増えたような気がします。
製版プレートのサプライヤーであるアグフア・ゲバルトさんや印刷機械メーカーのハイデルベルグ・ジャパンさんが、「工場をみせてあげてください」と彼らのお客さん=同業の印刷会社の方々を連れてきてくれるのです。

まだそんな胸を張れるようなポジションには至ってないなとも思うのですが、自分たちの工場を良くしよう!と一生懸命頑張っている中で、こうやって第三者からの評価をいただけるのは有難いことです。サプライヤーさんからみれば当社は印刷や加工の機械設備を上手に使っているユーザー、と思っていただいているのかもしれません。


印刷会社を顧客にしている(いわゆる下請け)印刷会社なら、工場を見せることはメリットにつながるかもしれません。「この印刷会社はすごい!」となれば、同業者さんから新しく仕事が舞い込むことも期待できます。
しかし当社はどちらかというと、印刷物のエンドユーザーにあたる企業や団体のお客さまが中心なので、その確率は低いのです。それよりかは、日々の営業活動では同業者とはライバル関係になることのほうが多いかもしれません。なので、そんなライバルになりうる印刷会社に工場を見せる=手の内をみせるような必要があるのか?と考えたこともあります。


しかし、考えを改めるようにしました。私自身、今でもよく同業者さんの工場に行って多く学ばせていただいております。眼を見張るような素晴らしい工場って全国を見渡せばいくつもあるんですよね。こちらとかこちらとかこちらとか。外観、内部の見た目、従業員さんの意識の高さ、機械の清掃具合や使われ方、作業の流れに至るまで、それはそれは美しい。
で、自分ばっかりがそういった優れたよそ様から学んでおきながら、ちゃっかり自分のところは秘密主義っていうのも単純に「やなやつ」ですよね。
だいたい、自分たち自身はまだまだ改善できるし伸びしろがある、と思っているのだから、秘密にするもなにもないよね、という考え方もあります。なので、最終的にはまぁいいか、と思うようになりました。(あ、もちろん工場見学をするときは、NDA守秘義務契約を結んでいるお客さまやプライバシーマーク関連の仕事は露出しないようかなり気を遣っております。)


工場見学に来られる方は現場の責任者から印刷会社の経営者まで印刷のプロばかりです。いわば先生が向こうからやってきていただけると考えたら、こんなありがたい話はないですよね。
そのうえで、見学に来てくださった方には必ず「当社を見学してよかったところ」と「もう少しこうした方が良い工場になるんじゃないか?」というポイントを尋ねるようにしています。すると多くの方々は、遠慮がちにですが、とてもヒントになるような視点を教えて下さります。自分たちでは気づかなかった当社の良い点や、改善すべき点を教えていただけて、実にありがたいお話です。



先週末は縁あって知り合った、デザインを学ぶ学生さん5人グループが見学に来てくださりました。皆さん、大きな印刷機を見るのは初めてだそうで、喜んでくださったようです。
彼らの将来に向けて少しでもお役に立てたのであれば嬉しい限りです。


当社の工場も10年前とは比べ物にならないくらい美しく、生産性も上がりました。けれども、あくまで当社比の話。上を見ればまだまだです。工場を考えることはお客さまの手に渡る印刷物がどうあるべきか、を考えることと直結します。頑張って「良い現場づくり」を継続していきたいと思っています。

ボタ落ち〜デザインのひきだし

前回に続いて「デザインのひきだし」ネタをもうひとつ。
前号の17号は「印刷加工に使えるあんな紙、こんな素材」という特集で、それこそ私も初めてみるような素材が一冊の本にこれでもか!と綴じ込まれておりました。もちろん内容は超充実の一冊。

そんな前号の「ひきだし」で面白いものを見つけました。

スプレーパウダーのボタ落ちです。

ページの上部に、白い粉が固まったような汚れがみえますよね、これがボタ落ち。

印刷機から刷り出された直後のインキはまだ乾燥していません。それによってインキと印刷裏面がくっついてしまうことを防ぐために、細かい粉をスプレーのように噴いて、下の紙と上の紙がくっついてしまうのを防いでいます。
ただ時間が経つにつれて、印刷機排紙部のチェーンやらファン、その周辺のグリス油にこの白い粉がすこしずつくっついて、どんどん堆積していってしまいます。これがちょっとしたきっかけで印刷された紙の上にボタッと落ちてしまうことがあります。これがボタ落ち。
まさにボタッと落ちたパウダー塊が乾燥して、本に挟まれてベターっとくっついています。

もし私が印刷のことを全然知らなかったら、「うわっなにこの白い粉の塊、気持ち悪い!換えてください!」とすぐに本屋さんに返品・交換に走っていたことでしょう。
しかし、私も印刷会社の人間です。うちの会社も今でこそ機械清掃やメンテナンスをがんばることでパウダー排出量を激減させることができています。けれども、数年前までは当社もまさにこのボタ落ちで悩まされていました。お客さんに怒られましたよ。そんなことを思い出すと、なかなかひとごととは思えません。それどころかこのボタ落ちのお陰で、どこの会社かは知らないけどこの頁を刷ったオペレータさんや機械とつながっているんだ、とさえ感じられて、この本がすこし可愛く感じられました。

その時とった行動。もう一冊買っていた同じ本の同じページを見に行きました。
おお。ボタ落ちはないけれども油で汚れている・・・ということはこのボタ落ち本と、もう一冊の油汚れの本の印刷ロットはあまり離れていないんだろうな、などとどうでもいいことを考えてしまいました。本当にどうでもいいですけれども。職業上の習慣のようなもんです。


同じくページの上部が少し油で汚れています。

この手の印刷上のトラブル、もちろん自社で印刷したものがお客さんの手に渡りクレームになったら、それこそ平謝りです。だけど、これが印刷と製本のトライアルを重ねに重ねた、ひきだし本から出たボタ落ちなんだから・・誠に個人的な感想ではあるけど微笑ましいなぁと。というわけで本屋さんに交換に走るのはやめて、レア版として当社永久保存とあいなりました。

印刷ハック〜デザインのひきだし

「デザインのひきだし」先日第18号が発刊されました。
いつもご近所の素敵な本屋「柳々堂」さんが会社まで持ってきてくださいます。
今号もご多分にもれず素晴らしい本づくり。よくぞこんな本をつくっていただきました、と感謝しながら毎号食い入るように読んでます。
今回は「蛍光・最高!」ということで表紙だけでなく小口にまで蛍光が。



本の内容は、デザイン関連の方々や印刷業界周辺の人々、あとは紙好きな人くらいしか興味をかきたてられないかも。けれども、この本を編集・デザインをされた作り手の方々の、紙と印刷への好奇心、探究心、愛情が痛いほど感じられる本。またいつも特集内容が、印刷を生業としている自分からみても、いや生業としているからこそかもしれない、ビックリするような企てで溢れており、「しまった!その視点はなかった・・・」といつもため息をついてしまいます。もちろんそのため息には感嘆だけでなく「ああ、これって印刷会社がやらなきゃいけないことじゃないの・・・」という自責もたくさん含んでたり。


雑誌「Web Designing 12月号」で編集長の津田さんが、グラフィックデザイナーの永原康史さんと対談をされていました。
この対談の本文を読む前に、このタイトルを見ただけで膝をうちました。

「過剰なる印刷ハッカーの冒険」

本文中で永原氏が”ああ!ハックなんだ。”とおっしゃります。ご慧眼!そうそう、この「ひきだし」ってまさに印刷ハックな本ですよね!と読むと頷くことばかり。
Web Designing (ウェブデザイニング) 2012年 12月号 [雑誌]


対談の中でこれは素敵!という津田さんのお言葉があったので引用させていただきます。

永原:印刷も再現度だけを目標にしていた時代がありましたよね。
津田:今でもそういうことを考えている人はたくさんいますよ。『ひきだし』でもいろいろな印刷のテストをするんですが、印刷会社やインキメーカーは、きれいなコート紙に、いかにきれいに刷るかばかりを求めたり。こっちは安い紙でおもしろく刷る方法を知りたいのに。そこのアドバンテージを理解していない人が多い。
永原:再現度を求めたら、紙で刷っても、モニタに映してもゴールは同じ。でもそれぞれの特徴を活かしていったら違うゴールに行き着きますよね。
津田:そうですよね。いかに実物に近く再現するかがじゅうようなものもありますけど、この紙に刷るとこうなる、違う紙ならこうなるっていうのが印刷。印刷業界全体で”印刷ならでは”のことを考えなくちゃいけないのに、広色域のインキをつくって、RGBに迫る再現性とか言ってる。モニタ上の表示をそのまま紙で再現するとかってどうなの?(笑)
ー中略ー
印刷ってインキがガツンと乗っていて、インパクトがあるのがいいところ。モニタや写真とは別物。もっと別のところに目を向けたほうがいいのにって思います。


Web Designing 2012年12月号, p108

本来であれば印刷会社である私たちこそが、この「紙、印刷ならではの特徴を活かした」モノやコトを一生懸命に考えて、そして実際に印刷機をつかって実験してみて、というものづくりを頑張らないとだめだと思っています。
この「デザインのひきだし」は創刊の頃から読んでいますが、はじめはそれにすら気づかず、単なるおもしろ実験本だと思っていました。(もちろん今でもおもしろ実験本としても凄いクオリティですが)
今では、この本が小さな新しい市場を創りあげたと勝手に思っています。少なくとも刷る側である私に与えた影響は大きい。

うちの会社でも最初は一部買っては数人で回し読み、みたいな買い方だったのですが、近頃では最初から三〜四部まとめ買いでその内容はもちろんのこと、ハッカーな姿勢までも学ばせていただいてます。

デザインのひきだし18
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おまけ。今号は蛍光特集だけに、部屋を真っ暗にしてブラックライトを当てると・・・(写真ではわかりにくいかな?)
本まるごと光りました。思わずおぉ!と声が出るくらいには光ります。本買った人はぜひお試しあれ。


もう2月。

たびたび更新せずに放置してしまうこのブログです。
せめて年が変わったら、と思っているともう2月も半ばになってしまいました。早いです。

今年は何回更新できるかわかりませんが、今年は対前年比で少しまじめに綴りたいと思います。
写真は近所に掲示されている書道教室の1月作品です。なごみます。

雑記

もう10日ほど前のはなしになりましたが。

日食グラスを入手しそこねたので、鏡を通して太陽をみました。
なんでも、鏡の直径の200倍のところで太陽が像を結ぶそうで。


それにしても、今回の日食ではテレビでもラジオでも「専用の日食グラスで見ないとダメ!色のついた下敷きとかフィルムとかは目を痛めるので絶対につかったらダメよ!」というアナウンスが徹底されていたように思います。


小学生の頃に部分日食を見た記憶があるのですが、そのときはみんな下敷きやらフィルムやらを使っていましたよ。あれは何だったんだろう?



なので、爪の先ほどの大きさの鏡を壁際に置き、家の壁に太陽を写しました。

それを、それでないものに写して、間接的に見るっておもしろい。

あ、そうだ!と思い庭に出てみると木漏れ日に太陽の形がたくさん。


こういう自然現象で感動したり、わくわくするのって久しぶり。
会社に出社すると、みんなも少し興奮気味に「見たよ!」と会話をしていて、ああやっぱりそうだよなー、こういうレアな自然現象って興奮を呼び起こすよなぁーと思いました。

軽印刷、軽オフ

軽印刷」という業界用語が存在します。
「軽い」印刷が存在するということは「重い」印刷もありそうなものなのですが、重印刷という単語は存在しません。


また軽オフ=軽オフセット印刷の略語、という業界用語もあります。

当社は軽印刷の会社です。いや、厳密に言うと軽印刷からスタートして、一般的な商業印刷会社のようになりましたが、軽印刷な部分は捨てていません、という会社です。

業界外の方からすると、それがどうした、となりますが、最近はこれって大切な概念だなぁと思っています。

日本にだけしか存在しない業界用語のようなのですが、先日wikipediaに"軽印刷"があったので読むと、なるほど、と上手くまとめられています。

Wikipediaより「軽印刷」

家内工業的で、小ロット(印刷部数)で、仕上がり(納期)が早いという特徴が、現代にまで受け継がれている。

そうです。当社も比較的、小ロットと短納期を評価していただくことが多いです。

さらに可笑しいのが、

印刷業界内部で使われる用語であり、「軽い」という言い方には「難度の低い印刷技術」「手軽に開業できる」という、いささか自虐的、差別的なニュアンスが含まれている。

という部分。これも、なるほど!と膝を打つ感じで、良い表現です。私も時には自虐的な意味で使ったり。

ですが今の世の中、大量生産・大量複製な時代ではありませんよね。当社の受注も近年、確実に小ロット・多品種化しています。

当社に設備している機械は、いまや軽オフセット印刷機だけではなく、大型の多色機や高速のデジタル印刷機が主役となりました。
しかし、この「小ロットなものでも、フットワークよく、スピーディに製本まで仕上げて・・」という軽印刷的遺伝子は未だに受け継がれているとおもいます。

先日、年にいちどのISO9001の定期審査がありました。その時に審査員の方からのインタビューで、
「社長は、御社のつよみは何だとお考えですか?」

と質問されました。私は、とっさに「いくら受注したロットが小さくても、丁寧に、いやがらずに作業をすすめる社員が沢山いること、またそういう文化をもっていることです」と答えました。

これも外の方から見たらわからないかもしれませんが、印刷というのはそもそも「量産技術」をベースに成り立っている商売です。
ということは単純に言い切ると「大量に印刷すれば、たくさん儲かる」という図式が成立します。
また、そうなると小ロット多品種、というのは「儲け」からは遠ざかるような話なわけです。
機械の段取り替えやら紙の手配やらで、現場作業は煩雑を極めます。普通だと嫌がって当然なのです。

それを、当社のスタッフは「軽印刷屋」スピリッツで、全く嫌がらずに前向きに作業をしてくれます。

それも、小ロット化がどんどん進むなかで、”印刷"だけではなく、組版もすれば、製本や加工までを社内でこなせる、そのようなスタッフに恵まれている。

かつては「自虐的」な意味でつかわれていたこの「軽」。この"かるい"部分、これがまた大切な要素になる時代がきていることを感じる、という独り言でした。