中西準子著 食のリスク学

山形浩生さんがどこかの書評で褒めておられたので、全然興味がなかったのですが山形さんが褒めるのであれば、と読んでみた一冊。

サブタイトルに「氾濫する『安全・安心』をよみとく視点」とあります。

えらい勉強になりました。

単なる食の安全にかんする一冊なのですが、食に関する本ではなく、社会がリスクに対してどう考えるべきか?について書かれた本です。会社経営にも生かしていきたい示唆にあふれた内容でした。

粗いまとめ。私的に納得ポイントとしては、

  • みなさん、食の安全となると費用対効果という当たり前の話が頭から飛んでしまい、リスクはゼロ!を声高に叫んでしまう傾向がある。
  • あちらを立てればこちらが立たず、というようなトレードオフの関係は随所に見られる。一例として
    • 水道水殺菌のために化学処理を施す。→そのおかげで、発ガンリスクが発生!→みんな大騒ぎ →処理をやめる →別の菌が繁殖して病気が流行、大変なことに。

これって一瞬笑ってしまいましたが、読み進めるうち全然笑えないことに気づきます。

  • 食の安全に対してみんなが騒いでも、それに対するコスト負担は税金から。騒ぐ側も自らの財布を(直接的、短期的には)傷めないからこそ、騒げる。
  • 食の安全という話(特にガンのリスクがありますよ的な話)になると、みんな100万分の1の確率でも大騒ぎしてしまうという話。そのリスクを排除するために際限のないコストを注ぎ込む結果になる。たとえ、そのコストを他の安全(例えば交通事故)に振り替えれば、より沢山の命を救えたかもしれないのに。

これらのイシューは自分も心当たりがあるなと感じます。統計的な感覚を自分の肚に落としていかないと、自らの軸をぶらせて、おかしなイデオロギー付和雷同してしまう。

自分は日常さほど食の安全について敏感ではない。だってタバコをすっているくらいですから。そんな自分がなぜこの本に感銘を受けたかというと…

このパターンって今の世間の環境に対するスタンスととっても似ている。

そう思ったからです。

会社には営業目的の適切なお化粧や、風評被害を防ぐ努力も必要だと考えるので、弊社も印刷業界で求められている環境対応はかなり高いレベルで実施しています。(わかりやすい観点として第三者認証は複数取得しています)

しかし、その努力の中には、「この基準ってこの勢力(例えば業界団体とか)が自分の権益を守りたいからそういう論調を醸成しようとしているだけじゃないの?」と思わされることもいくらか散見されます。

真に環境負荷をかけない、ということはどういうことか?というのはよく考えないと。
答えはないかもしれません。ひょっとすると、特定の状況では印刷物は(環境負荷だけを考えると)悪でしかない、ということもあり得ます。お客様の要望には当面応えつつも、長い時間軸で見たときには、間違った方向には行ってなかった、というような舵取りバランス感覚が求められる世の中だと思います。