環境にやさしい紙について

新型コロナウィルスの影響でしょう、新しいお仕事の引き合いも減少気味なのですが、以前と変わらず問い合わせが多いのが、「環境にやさしい紙と資材で印刷物を作りたい」という質問です。


行政の指定で、再生紙に類するものを使うことを義務付けられているからこの紙で見積りをして、という単純なものも多いのですが、最近増えてきたのが、どんな紙を使えば本当に環境負荷が低く、かつ印刷物としても良いものができるでしょうか?というものです。
こういうお問い合わせには真摯に向き合いたいと思うので、色々と調べたり、製紙メーカーにレクチャーをお願いしたりしてはいるのですが、調べれば調べるほど、何をもって環境負荷が低いとするのかは難しい。

完成品の風合いを考えるのは当然なのですが、コストバランスやリサイクル適正、原材料の作られ方など、どこに視点を置くかによって決定版はこれ!と言えないのが歯がゆい。


かつて電子書籍が出始めたときのように、紙を使うこと自体が環境によくない!的な原理主義的な言説は最近は減ってきたのは嬉しいのですが、では何が環境に良いのか?となると話はまた別なのです。


そのようななかで、最近関心が高いのがLIMEX(ライメックス)という石灰石からできた紙。
パルプを原料とせず、石灰石と樹脂を均一に混ぜたものを紙状に成形した「革命的」な素材だそうです。紙の代替にもなるし、プラスチックの代替にもなる。印刷会社である私たちは、この新しい素材に、印刷や製本加工の適性を試すべく諸々のテストも行っています。これからはLIMEXを指定した印刷物が増えてくると感じますし、印刷素材の多様性が広がることは歓迎すべきことでしょう。


ここまでならまったく新しい、環境にやさしい素材が日本発で開発されてすごい!というだけなのですが、一筋縄ではいかない話もあります。

CSRや環境に詳しいビジネス情報誌である「オルタナ」が、このLIMEX礼賛の流れに注意をうながす記事を掲載しています。

www.alterna.co.jp


私なりに解釈した批判のポイントは

  • そもそも石灰石だけでなく樹脂(石油由来)もたくさん使ってるよね?
  • 間違えて紙として捨てて燃やしてしまったら逆に色々と問題がある。温暖化が加速するんじゃないの?
  • 従来からしっかりと機能している古紙回収のシステムにとっては、(古紙として混ざると困る)LIMEXは負担にしかならない。

それに加えて、最近はこのLIMEXを使ったレジ袋が容器包装リサイクル法に違反しているのでは?という記事も掲載されています。

石灰石ペーパーLIMEXが「容リ法ただ乗り」の疑い — オルタナ: サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」


これってどう判断するかとても難しい問題だと思います。
当社はこれについて白黒つけるのは一旦保留。
ただ、お客様にこのオルタナ誌の記事を紹介しながら、このような問題を提起する意見もある、ということは申し上げるようにしています。


まさに現在のコロナ禍のなかで、PCR検査や次亜塩素酸ナントカ等の諸々について様々な意見が専門家の間で交わされた図式と似ています。
ファクトは一体どっちなの?と常々確認しながら慎重な姿勢を堅持する必要があると思います。

で、おすすめの環境にやさしい紙はどれやねん?とそれでも質問されたら、今のところはほぼこれ一択。

jp.fsc.org


FSC、森林認証の紙。これをお勧めするようにしています。
紙はもともとカーボンニュートラル(CO2が増えない)ですし、管理された森林からできたFSC認証紙は第三者認証でもあり安心な選択肢だと言えると思います。

今の社会意識を反映した、新しくて重要な課題だと思います。ましてや新しい素材が世に誕生したら疑義も含めた議論が交わされるのも当然でしょう。
当社としては状況を常に見ながらお客様にとってのベスト、ベターを提案していきたいと思います。